虎御前山(ハイキング・コース)

虎御前山は、戦国時代末期に織田信長の軍勢が、小谷城に立てこもった浅井長政を攻めるために要塞化した山です。行くとわかりますが、小谷山とはすぐ向き合った関係です。虎御前山の南半分は、キャンプ地などとして開発され、かつての面影はありませんが、山頂付近から小谷山に対峙する北半分には、山城の構造が非常によく残されています。歴史上有名な戦いの地で何が行われていたかを観察するのに、またとない場所と言えます。

なお、「御前山ハイキングコース」でこのページが検索結果に出るようですが、このページは滋賀県の「虎御前山ハイキングコース」の紹介です。

このコースの地図を参照


虎御前山へは、JR虎姫駅から歩いて登るのがお勧めです。距離だと、ゴールのJR河毛駅まで6㎞弱ですから、ゆっくり歩いても3時間あれば楽しむことができます。(虎姫駅までの経路をGoogle Mapで調べる)

なお、地名の虎姫は虎御前のことで、虎御前という女性が登場する伝説に基づいています。曽我物語にも虎御前という女性が登場するそうですが、別人のようです。伝説に関しては『近江輿地志略』という江戸時代に書かれた本に記されています。虎姫の名は、明治時代に虎御前に因んで名づけれらた地名だそうです。

〈虎御前山〉
始は長尾山と号す、此山に桃須谷といふ所あり、其谷に井筒と号する泉あり。此地に一人のの美女忽焉として顕れたり容色類なし。
せせらぎ長者娶りて妻とす、其名を虎御前といふ。懐胎して十五筋の小蛇を産す、はなはだこれを恥ぢて山東の淵に身を投ず、今の女性淵是也。
爾来此山を虎御前山と号すといふ。

『近江輿地志略』

コースの見どころ

JR北陸本線の虎姫駅は、黒壁スクエアなどが人気の長浜駅の次の駅です。駅にはカフェが併設されており、ランチなどもいただけるようです。この辺りには他にレストランや商店が見当たらないので、貴重です。また虎姫駅にはイタリアンダイニングカフェ・チィーボもありますが、取材の日は水曜日で定休日でした。

JR虎姫駅のカフェ
JR虎姫駅のカフェ

駅を出てすぐ目に付いたのが、「元三大師ご誕生の地」の看板。これは良源という天台宗のお坊さんで、912年頃に現在の長浜市三川町(JR虎姫駅から東の方)で生まれ、延暦寺でおみくじを始めたことで有名なのだそうです。この辺り、あちらこちらにおみくじが展示してありました。

元三大師ご誕生の地
元三大師ご誕生の地

さらに周辺には虎明神とか、虎の力水などがあります。これらは虎姫にちなんで地域おこしのために作られたもののようで、特にこの地の歴史に関係があるものではないようです。

虎の力水
虎の力水

ここから、虎御前山の麓にある資料館、虎姫時遊館へと向かいますが、途中には三ヶ所の地蔵堂があります。天台宗はどうも地蔵信仰と結びついているようで、滋賀県全体に地蔵が多いように思います。

北大寺地蔵
北大寺地蔵

この辺り、伊吹山がとてもきれいに見えますが、高圧電線がかなり邪魔ですね。Photoshopで消したいところ。

伊吹山
伊吹山

虎姫時遊館は、イベントや会議スペースのある施設ですが、ミニ・ミュージアムになっていて、虎御前山や小谷山城攻めに関する歴史をあらかじめ予習することができます。

虎姫時遊館
虎姫時遊館
虎姫時遊館の展示
虎姫時遊館の展示

虎姫時遊館の隣には丸山古墳があります。現在円墳が再現されていますが、元の古墳は古墳時代初期のもので、説明書きによれば日本最古の古墳だとか。真偽のほどはわかりませんが、発掘された青銅製の唐草紋緑細線式獣帯鏡は紀元前に漢で作らたものと推定されています。そんな重要な古墳の割には知られていませんし、史跡にもなっていないのが不思議ですが…虎御前山の周辺や尾根筋は、古墳だらけで、古代この辺りに有力な豪族が住んでいたことは明らかでしょう。

丸山古墳
丸山古墳

ここから虎御前山へ行くには田川という川を渡ります。その橋のたもとにあるのが「三川港について」という碑文。江戸時代にはこの辺りで船に荷を積み、田川から琵琶湖に出て大津などと結ばれていたようです。

「三川港について」
「三川港について」

虎御前山への登り口は神社の鳥居です。道はしばらくは神社の参道の石段ですが、右側には車道も作られています。

矢合神社鳥居
矢合神社鳥居

神社の名前は矢合神社ですが、古くは八相社又は八相大明神と呼ばれていたようです。虎御前山の南側は「八相山」(はっそうざん)と呼ばれていたそうですが、これを「やあい」と呼んで、この地で盛んだった弓から明治時代になって「矢合」の字が充てられたそうです。

虎御前山は織田信長の浅井攻めの陣となったことで有名ですが、実は室町時代初期(1351年)に足利尊氏と弟の足利直義との間で起こった「八相山の戦い(八相山合戦)」がありました。足利直義は観応の擾乱と呼ばれる一連の戦に敗れ、捉えられて幽閉されたのち翌年没しているそうです。 「八相山の戦い」 の方は、虎姫時遊館の展示でも触れられていません。戦跡や記念碑も一切ないようです。

矢合神社の本殿は、戦国時代の戦で焼け落ちて、江戸時代の天明年間(1875年前後)に再建されたものです。写真左には鐘楼が写っています。「神社に鐘楼?」と思えるものですが、戦火を免れた道成寺の鐘楼が移築されたものだとのこと。道成寺は八相山の山麓にあった神宮寺で、能や歌舞伎に出て来る道成寺とは関係ありません。

矢合神社
矢合神社

この辺りから上は、電波塔があったり、キャンプ場があったりと、古代の古墳も、戦国時代の戦跡も、すべて破壊されてしまっている様相で、歩いていてもあまり面白くはありません。丹羽長秀陣地跡辺りも、開けていて気持ちが良いと言えばそうですが、歴史的なものはすべて破壊されています。後方の電波塔付近に三角点があります。

丹羽長秀陣地跡
丹羽長秀陣地跡

電波塔の近くまで登ると、自然林に入ります。多くはカシの木の仲間のアベマキです。かつては近隣の人たちに里山として使われていた名残でしょうか。この辺りから古墳が沢山出てきます。虎御前山古墳群には確認されただけで85基の古墳があります。その中でも山頂付近のものは信長馬場古墳群と呼ばれ、33基からなっています。これだけの古墳が尾根上に連なっているのですから、かつては凄い景観だったのでしょう。

虎御前山古墳群
虎御前山古墳群

前方後円墳の三号墳。43mあるそうですが、見ただけでは全容は把握できません。

信長馬場古墳群三号墳
信長馬場古墳群三号墳

これまで開発が進んでしまって退屈だった道は、この辺りから様相を一変させます。電波塔までで車道ももうなく、山道になり、古墳や戦国時代の城の構造物が良く残っています。

やがて樹林の中に瀧川一益陣地跡。瀧川一益(かずます)は織田信長は以下の武将でした。虎御前山の三角点もこの近くにありますが、ここが最高地点というわけではないようです。

瀧川一益陣地跡
瀧川一益陣地跡

この辺りからは、次々に城郭の遺構が出てきます。

虎御前山の横堀
虎御前山の横堀

そして堀秀政陣地跡。堀秀政は織田信長、豊臣秀吉に仕えたのち、1590年の小田原征伐の最中に病死した武将です。

堀秀政陣地跡
堀秀政陣地跡

そしていよいよ織田信長の陣跡。要塞の真ん中、という感じのところです。今は木立の中ですが、当時は構造物を作るために木は刈り払われ、見晴らしがよかったのでしょう。

織田信長陣跡
織田信長陣跡

続いて、最前線にいた豊臣秀吉(当時は木下秀吉)陣跡。写真ではわかりませんが、この辺りもかなりの防御施設が作られていたようです。当時秀吉は、虎御前山城の城番に任ぜられていました。

木下秀吉陣跡
木下秀吉陣跡

そして柴田勝家陣跡。この辺りも古墳が多く、柴田勝家の陣も古墳の上に置かれたように思えます。

柴田勝家陣跡
柴田勝家陣跡

しばらく行くと、夫婦岩への分岐があります。夫婦岩は山の中腹にある二つの大岩のことです。道は踏み跡程度で急斜面、夫婦岩は樹林の中で視界も悪く、あまり見に行く価値はありません。ガイドですから、確認のために見ては来ましたが…

夫婦岩
夫婦岩

夫婦岩の分岐からしばらく進むと、正面に小谷山がよく見える場所に出ます。この距離で両軍が睨み合っていたということが実感できる場所です。

小谷山を望む
小谷山を望む

この辺りからは、一気に斜面を下る道となり、すぐに河毛駅へと続く県道に出ます。

集合場所

JR虎姫駅が起点で、ゴールはJR河毛駅です。逆ルートも可能ですが、河毛駅側からの登りは急斜面になります。

行程とコースタイム

このコースはJR虎姫駅から歩き始め、見学を含めて3時間ほどです。前半は神社の石段や、車道なども混じった緩いのぼりが続きます。後半は山道です。

昼食

JR虎姫駅構内にはランチが食べられるイタリアンダイニングカフェ チィーボ(水曜日休み)があります。それ以外、道中には飲食店もコンビニもありませんので、昼食をはさむ場合には弁当持参がお勧めです。米原で北陸本線の普通列車に乗り換える場合には、米原駅構内に駅弁の売店や、コンビニがあります。日の長い季節であれば、虎姫駅で早目にランチを取ってから出かけても良いと思います。

トイレ

JRの駅と、虎御前山に登り始めるところにある公園にトイレがあります。その他は道中にトイレはありません。

持ち物と服装

軽登山のスタイルをお勧めします。靴はハイキング・シューズが良いでしょう。

ハイキング適期

年中訪れることができますが、夏の暑い時期と降雪がある時は避けるほうが良いでしょう。琵琶湖に近いので、特に冬に風が強い時にはお勧めできません。

近隣の見どころ

小谷山城はすぐ近くで、健脚者であれば、虎御前山と小谷山の両方を一日に歩きとおすことも可能です。